NO289                 By  Yank さん (H27.03.08)

またまたモニターを修理することに

 LG W2243Tの「お見事!」修理編

 ども、Dynaです。

  昨年の11月に、モニターが真っ白になる現象を、ものの見事に修理されたYankさん から、今年の1月に

次のようなメールをいただきました。
 

 「昨年、三菱のRDT223WM-Sの画面真っ白という故障修理を掲載していただき、ありがとうございました。

今度は、別の事例ですが、 LGエレクトロニクスの W2243T という、フルHD液晶モニターが、電源を投入し

ても、LGのロゴが出て、すぐにシャットダウンするということで、修理をする機会があり、その結果、一つの

 テクニックを見出したので、メールさせてもらうことにしました。


 原因は単に、CCFLの一本が完全に死んでいて、保護回路が働くというものでしたが、同一のCCFLが入

手できず、またパネル自体を交換しように も、これも入手できずでした。保護回路を働かないように回路を

殺しておくと、下部が上部に比べて、暗いものの、何とか使えますが、発煙等のリスク があるため、これは

できません。諦めかけたときに、あるアイデアが浮かび、それを実行してみたら、何ら問題なく、使えるレベ

ルになりました。


 どういうアイデアで、それをどう実現したかは、ちょっとの計算と初歩の回路技術があればできることでし

た。もし、ご興味があれば、これを公開しよ うと思います。保護回路を殺すような危険なこともせず、その

機能は維持しつつ、上下の輝度差もなく、安心して、使えるようになったので、このアイ デアを私一人占め

ではなく、類似の問題でお困りの方に、公開すべきかとも思い、メールさせてもらう次第です。」
 

 これは、興味津々ですね。”ちょっとの計算と初歩の回路技術があれば”の部分は、当方的に微妙ですが

アイデア部分がとても気になります。というか、メールの文章が、あまりに上手で参りました。

 さて、今般レポートが届いたのですが、当方のレポート作成作業が詰まっていたため、HP作成作業が遅

くなってしまい、大変失礼しました。早速拝見しましたが、確かに「お見事!」ですね。ありがとうございます。

 まさに発想の勝利、最後まで諦めない「はやぶさ」的根性とでも言えるかと思います。

 でも、発想は出来ても、安全をどうキープするか等、かなり専門的な技量を要しますので、当方レベルの

技量の方は、簡単にまねしないようお願いします。

 でも、たいへん勉強になりますので、 ご一緒に拝見しましょう。

                                                  By Dyna  メール  


またまたモニターを修理することに ・ LG W2243T編 」

1.はじめに


 概要はDynaさんがすでに記述済みなので、細かいことは後にして、紹介写真の後、概要を書き、回路図

を示しながら、部品の入手ができないものをどうやって修理したか、順次、説明させてもらいます。

 修理というより改造なのでしょうが、一台だけながら、地球のゴミを増やさずに済みました。


写真(#01)
           < 一瞬だけ現れたLGのロゴ >

 



2、故障の状況

 この写真(#01)を撮るのには手間がかかりました。ロゴが現れても、すぐシャットダウンしてしまうため、

シャッターチャンスが短く、カメラのフォーカス機能が働ききらない間に消えてしまうからです。数回のトライ

をして、やっと撮れた1枚ですが、ピンボケでした。言い換えると、モニターそのものも、シャットダウンして

しまっては、原因を調べるのは簡単ではないということにもなります。

 

 

、原 因 は 

 原因は単に、4本あるCCFLの1本が死んでいて、保護回路が働いてしまうというものでしたが、どうやっ

てそれ調べたかは、下に書きます。しかし、同一のCCFLが入手できず、またパネル自体を交換しようにも、

これも入手困難でした。例え、入手できたとしても、新しいモニターを買うより高かったかも知れません。

諦めようかと思い始めたとき、


「1500回の失敗をしても、諦めずに、実験を続けたことが実を結んだ。」

という趣旨のことをノーベル賞に輝いた天野教授が話されているのをテレビで見ました。日本の3人の科

学者がブルーLEDでノーベル賞に沸いていた頃でしたから、連日、メディアはその話でもちきり状態でした。

私にはとてもそんな忍耐力も能力もありませんが、私も科学関係の人間の一人です。少しは天野教授を

見習わないといけないと思った次第で、対応策を考えてみました。




(1)CCFLを駆動している基板

 CCFL回路の制御には DMB Technology社のDT8211というICが使われていていました。下の写真(#

02)の中央右に黒く見えるのがそうです。基板を見ながら、パターンを調べ始め、保護回路が働かないよ

う、あれこれ試し始めてみました。
 

 灰色の線はその確認のために私が仮付けしたもので、後で外しています。通電すると、すぐにDT8211の

12ピンのICMP端子の電圧が上昇していき、3.5Vに達するとシャットダウンしたことから、CCFLの異常によ

るものと分かりました。
 

 それが分かったのは、ICのデータシートを見つけ、ざっと読んでみたからで、

http://bbs.dianyuan.com/bbs/u/70/93971224214839.pdf  にそれはありました。


 駆動トランスは右端の中ほどの裏にありますが、熱で基板の色が幾分変わっており、熱設計に甘さがあ

るのかとも思います。

写真(#02)
          <分解して引っ張り出した実験中の基板

 



4、回路図からアイデアが

 基板とICの仕様書から、回路を調べ、保護回路が働かないように回路を殺しておくと、上側のCCFL 2本

は光り、下側は暗いという状況でした。下部が暗いものの、シャットダウンはせず、何とか表示し続けてくれ

ました。一応、画面は消えませんでしたが、新たな不具合や発煙等のリスクがあり、そのまま通電しておく

訳にはいきません。
 

 そのとき、浮かんだアイデアは、回路に手を加え、CCFLを上下とも1本づつだけで明るさの

バランスをさせて、多少暗くても使うというものでした。
 

 実際に試してみると、明るさは不足するかと思いきや、特に暗くはなく、実用できるレベルになってしまい、

結局、このモニターは廃棄することなく、生かすことができました。

 

(1)基本回路図より

 上のアイデアで行けるだろうと踏んだのは、前述のデータシートと基本回路を見ていたときでした。それを

下に拾い出して紹介すると、4本あるCCFLの2本づつを直列にして、中点を抵抗で接地しています。これで

電流ループを構成して、駆動しつつ、電圧と電流の両方が監視されていますが、どう回路が構成されてい

るかの概念が読み取れます。

 この方法なら、1つのトランスで4本のCCFLを駆動でき、電流検出が効率良く低電圧箇所でできます。

青と赤のXマークは単なる私の入れたマークですが、検知回路をどういじるかを考えて入れたものですが、

片側の駆動回路を無いものとしてしまえば、という発想です。青のXは電圧検出を、赤のXは電流検出に

関係しています。(回路図A)

(回路図A)
               <基本回路>

 

 

(2)実駆動回路図

 上の基本回路は単なる概念を示しているだけで、CCFLの実駆動回路は”ほぼ”下にある回路図Bのよう

になっていました。こちらは、以下のURLの19ページから拾ったものです。


http://monitor.espec.ws/files/dt8211_188.pdf


”ほぼ”と書いたのは、LGの回路はデッドコピーとも思いたくくらい、ICメーカーのレファレンス回路に似て

いたからです。多少定数は違っていても、余りにそっくりで驚いてしまいした。実は、最初、基板を見ながら、

回路を調べ、回路図を書き取り始めましたが、老眼な上、片目の利かない私には、辛いものがあります。

時間がかかるかと思いきや、手抜きができて、レファレンス回路でほぼ全容が掴めてしまったのです。
 

 また、このICは、巧妙な仕掛けで、ダイナミック点灯、駆動パルスの+とーのDuty比制御、3種類の輝度

制御、保護機能等をこなしていて、上の2つのURLから得たpdf資料は、修理というより改造をするには必

須でしたし、CCFLの制御の基本のおさらいにもなりました。



 DT8211はなかなか優れもののICですが、世の中、もうCCFLの時代ではなく、今やLEDが主流です。私

のような過去の技術者ももう、出る幕なしといったところで、年金暮らしですが、こういう少し前までのもの

なら、何とか分かります。



 (回路図B)
              < 実駆動回路 >

 この回路のどこをどうしたのかは、下に拡大して書きますが、CCFL 2本だけで動作させるには、ちょっと

の計算と初歩の回路技術は必要でした。それは保護回路の動作点を計算することと、殺す部分と生かす

部分に区分し、異常時の保護機能は維持しつつ、上下の輝度差もなく、安心して使えるようにする方法で

す。

  但し、画面はオリジナルよりは暗めになってしまいます。でも、元々、明る過ぎて、輝度を下げて使って

いたような製品だったそうですから、実用上、特に問題にはならないかもと思ってのことです。作業完了後、

明るさを第三者にも確認してもらいましたが、「十分に明るいじゃない。」と言われただけでなく、その後、

このモニターはその方に貰われていってしまいました。
 

 



5、具体的なやり方


 DT8211は広範に使われていて、他の類似モデルでも採用は多いようです。オールインワンなICなので、

そうなったようです。それらの多くで、CCFLは上側に2本、下側に2本がそれぞれ直列になって、駆動され

る回路構成になっています。従って、次に同じような問題のモニターがあったなら、同じことをすれば良く、

防備録にまとめることにしました。また、私以外にお困りの方があれば、参考になるかとも思った次第です。


 私の具体案は、上の1本と下の1本を直列にして働かすという方法ですが、こうすれば、電流ループが構

成でき、上下の明るさのバランスは取れます。このとき、使う駆動回路は、元々、下側用に使われていたも

のを使い、上側用は無負荷とすることにしました。

 
 そうすると、CCFLのリードが届き、細工を殆どしなくて済んだからです。駆動トランスは1個だけで構成さ

れており、1次側巻線と2次側巻線の2つのは、十分に低いリーケージインダクタンスで結合していることも

確認しました。2次側の片側が無負荷でも、絶縁さえ押さえておけば問題はないはずと睨みました。言葉で

書くとそういうことですが、回路図を使って説明しないと始まらないかと思い、そうさせてもらいます。


 下の図(回路図C)はトランス周辺部です。緑矢印で示すT1というトランスの3ピンと4ピン間の巻線は、C8

とC9及び、HV3とHV4に繋がっています。この系には負荷を掛けないようにしました。上1本、下1本のCCFL

2本が直列になるように配線を変え、1ピンと2ピン間の巻線で2本を駆動することにしました。


 また、電圧を検知するために使われている緑丸で示すC8とC9は外しました。こうすることで、T1の2次側

の3-4ピン間は完全に無負荷になります。3ピンと4ピンの端子間は距離もあり、絶縁破壊が簡単には起き

ないとは思いましたが、パターンが基板上を数cm走っており、端子から、3mmのところでリューターを使っ

て銅箔を5mmほど除去し、シリコンRTVを塗っておきました。


 1KVを軽く越えるところなので、今は良くても、長年の内に、空気中のチリや水分を吸着し、絶縁破壊す

ることを避けるためです。そうすれば、C8もC9も外す必要はなかったのですが、すでに外した後で、その

ままです。


(回路図C)
   <駆動トランスと電圧検出回路>   (1−2ピンが現物では下側のCCFL用)


 一方、電流を検知する保護回路が誤動作せず、正しく動作するように、改造をしましたが、それは、検出

をしている下の部分(回路図D)に、緑丸で示すダイオードの足を浮かせて、回路を切り離すということと、

バイアス抵抗のR12の変更で対処が可能でした。


 保護は、CCFLが駄目になって、電流が殆ど流れないと機能するようになっています。(この詳細は、最初

のURLの9ページにあり)CCFLに電流が流れていないと判定する基準は、オリジナルでは、緑矢印で示す、

R12と、R15-17で構成する4つの抵抗比で決めていますが、改造することで、R15とR16は無関係になりま

す。


 いずれにせよ、この回路は2つのダイオードの順方向降下電圧とOR回路機能を利用して、CCFLに流れ

る電流によって、R19-22に発生する電圧とほぼ同じ電圧をICに送り込むようになっています。厳密には、

D2-5のBAV70のばらつきと、順方向電流の差によるVfの差が影響しますが、0.1V以下のことで、無視して

問題ないはずです。


 IFBが0.75V以下になると、CCFLの異常と判定するので、R19-22は470Ωであることから、i=E/R を計算

すると、0.75V/470Ω=1.6mA ということになりますが、R12と、R15-17で構成する回路の影響も考慮するこ

とが必要です。でも、この系は電流は0.25mAと少ないので、影響は少ないはずです。



 R12を補正しようとしましたが、手持ちに多種類の抵抗もなく、半固定抵抗を使って、最低輝度で電流保

護が働かないところにセットてみました。いわゆる現物合わせで済ませてしまいましたが、これで、CCFLを

2本にしてもOKになりました。


 1本を外すと、シャットダウンします。厳密には、細かく計算して、最適抵抗値を選ぶのがベストですが、

部品を買いに走るより、半固定抵抗で済ませてしまうという私の手抜き癖がここでも出てしまいました。


(回路図D)
            <電流検出回路>

 

 

 

、まとめ
 


 [ 実用できるようになったモニターの画面 ]


    <愛用のLinux Mintを起動したときの画面>

 一連の作業後、このように実用上、特に支障のない明るさで使えるようになりました。私が長年使ってい

るI社のフルHDのものより良いくらいです。

今回、部品入手ができなくても、何とかなってしまったのは、整理するとこうです。


1,CCFLが4本中1本が死んでも、上に1本、下に1本という構成に変えて、何とかなった。

2,1のためには、CCFLの配線を変え、保護回路を改造した。

3,使わなくなった巻線のパターンはカットし、絶縁対策しておいた。



 もし、次にまたCCFLの1本が死んだら、使わなくなっていた1本を使うということもできます。或いは、LED

を使ってみるという手もありそうです。
 



(1)一番苦労したこと

 それはリヤカバーを外すことでした。とても手間がかかりました。ビスは2個だけで、他は、10数カ所の

爪でがっしりと固定されていて、三菱の液晶モニターと似た様な構造と状況でしたが、爪の数が、LGの方

が多く、かつ深くて、諦めたいくらいでした。電気的な故障箇所を見つけ出すより、いつも、そういうところ

で苦労します。回路を弄るのは楽しく、差し引きしても、機能させられるようになったときの達成感は大きい

ものです。



 傷や変形が一部できてしまいましたが、今回は、人からの修理依頼ではなく、直して使えるなら提供する

よ、という、出入りしている車屋さんにもらったものだったので、傷は余り気にしないことにして、バリバリと

やってしまいました。最初の3−4箇所を外すのは大変で傷やひびができてしまいましたが、その後は気楽

にやることで何とかなりした。



(2)後日談

 修理後、経過観察しながら使っていましたが、何ら問題なく、I社製から、こちらに乗り換えようかと考え始

めたとき、これでも十分に明るいと言ってくれた人が訪ねてきました。

「どっちが綺麗?」 と私が聞いたら、

「LGの方」  という返事が帰ってきました。また、その人から

「欲しいくらいだな。」 という言葉が続いて出ました。そのとき、

「持ってけ、ドロボー。」 と私は言ってしまいました。

「その人は、不思議そうな顔で、本当にもらっても良いの?」 と念を押していましたが、

「私に二言はない。ワッハハ。」 と言ったら、ニコッと笑って、帰りに持っていきました。そして、私の机の上

も広くなりした。


 後で電話があり、映りも良く、表示範囲の広さが有り難いと大いに喜んでもらえ、私としては、達成感も

あり、今回も老人ボケの予防に少しはなったかもと思った次第で、老人の劣化した目には、やはり古くなっ

ても使い慣れたI社のもので十分です。LGのものは、ちょっとぎらぎらした感じと色が鮮やか過ぎる感じが

私にはしていました。


 しかし、基板の改造部分やその他の細かい部分の写真を撮る前であったため、写真は以前に撮った3枚

しか残っていません。回路図からどう対処したかは、お分かり願えるかと思い、Dynaさんに相談して掲載し

てもらうことにしました。

 このレポートが類似なことでお困りの皆さんのお役に立つなら幸いです。

 

「当記事は、専門知識を有する方が実施したもので、同様のトラブル等に対し、同じ結果が得られることを

補償するものではありません。また、これらの行為には危険を伴いますので、絶対にまねしないでください。

実施する場合は、あくまでも自己責任でお願いします。」


 


 ども、Dynaです。

  レポートありがとうございました。アイデアが分かった時は、「ひょっとすると、当方でも出来るかも。」と

思えたのですが、進むにつれて、残念ながらチンプン・カンプン状態になってしまいました。ただ、何をしよ

うとしているのか位は分かりましたので、時間をかければ「何となく」レベルですが、分かるかも知れません。

 当方なら、単純に2本点いている冷陰極管の一本をそのまま、反対側に持って行くレベル程度なら考える

かも知れません。でも、安全回路が働いて、すぐに切れてしまうとは、ちゃんとしているのですね。また、安

全に関する説明文を読んでいて、当方が実施しているジャンク改造の危険性が、あらためて感じられた次

第です。勉強になりました。ありがとうございます。
 

                                                  By Dyna  メール  

 

 

 

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