NO.274 By Yankさん (H26.06.20)
内部ショートした「チップセラミックコンデンサ」の交換!
NECのPC-LS150BS6Wを復活させる
ども、Dynaです。
5月上旬のGW明けに手術を行い、早くも1ヶ月経ちました。予定では、心身ともに復活して、秋葉巡回も通常どおりに
行っている想定だったのです。しかし、世の中そんなに甘くありませんね。いまだに患部の激痛と、特有の副作用に悩
まされています。しかし、早期の復帰を目指すなら、一歩でも二歩でも通常生活に近づけることが、どうやら早道のよう
で、無理のない範囲で頑張ることにしました。
とは言うものの、まだまだレポートを書く気力が沸きません。(構想は2点ほどあるのですが・・・・。)
そんな折、いつも感激レポート類を送ってくださるYankさんから、気になるレポートを送っていただきました。内容は、
最新のノートパソコンの修理なのですが、当方では想像もつかない、チップセラミックコンデンサの交換なのです。原理
的にはデスクトップのコンデンサー交換と同じなのですが、不良コンデンサの特定とか、交換方法とか、未知の世界が
待っていますね。では、早速拝見しましょう。
By Dyna メール
NECのPC-LS150BS6Wを復活させる
1、はじめに
結論を先に書いてしまうと、3桁の数が使用されているチップセラミックコンデンサの中の、たった1個の内部ショート
が故障の原因でした。しかし、並列に沢山使われているコンデンサの中から、一つを特定するのは、容易ではありませ
ん。どうやって見つけたか、経緯を含めて、以下順番に書いてみます。
2、修理の依頼が
とある日、娘の知り合いの若い女性から、「写真のノートPCが壊れ、とても困っている。」と相談を私は受けました。
NECのPC-LS150BS6Wというモデルでしたが、使い始めて3年ほどで、電源が入らなくなったとのことでした。買ったお
店に持って行き、メーカーのサービス部門に確認してもらったら、基板交換になるので、部品代だけで、5万円は最低か
かるとのことでした。
私は、ジャンクを復活させることは、駄目元で、気楽にやって来たため、こういう、まだ比較的新しいPCを、業者のよ
うに直すということはしていません。そのため、「お断りしたい。」という思いと、技術的興味のために、「触ってみたい。」
という2つの思いが交錯して、迷いました。
でも、持ち主の女性から、
「駄目でも良いので、是非、診ていただけませんか?」
と強く頼まれてしまいました。中には、貴重なデータや写真があるそうで、このまま捨てる訳にもいかず、高額な修理
代や新しいPCの購入といった、急な出費は辛いとのことでした。うら若き美しい女性に、そこまで言われると、爺さん
の私でも、男として、嫌とは言えず、引き受けてしまいました。
<<NEC PC-LS150BS6W>>
3、故障の原因究明
(1)PCの症状
そういう状況でしたから、預かって、一通り、調べることにしました。電源ボタンを押すと、全LEDが一旦、点灯しますが、
すぐに消えてしまい、起動はしません。その後、電源ボタンを押しても、無反応でした。一方、電源ボタンを押さなければ、
バッテリーはちゃんと充電しているらしいことが、AC100Vラインの消費電流からは伺えました。何故なら、電源ボタンを
押すまでは、0.15Aほどが流れていて、バッテリーがほんの僅かですが、暖かくなっていたからです。
(2)故障の想定
これらから、予想したのは、ACアダプターの問題ではなく、本体に何か支障があるらしいことでした。電源ボタンを押
した瞬間、1Aほどが流れ、すぐに、0.03A以下に下がってしまい、その後、ACプラグを抜いて、暫く待った後に再度刺さ
ないと、充電の再開はしません。また電源ボタンを押しても、全LEDが点灯することもありませんでした。その様子から、
サイリスタ機能を持つ過電圧か、渦電流保護回路が動作していると、私は睨みました。取り敢えず、内部のDC-DCコン
バータの電圧の立ち上がり波形を調べてみようと、キーボードを外し、さらに、上側と下側のカバーを外して、基板を露
出させました。
<<基板にアクセスできるように、キーボード、上下カバーを外したところ>>
(3)オシロスコープにて
オシロスコープで、各出力電圧を観測すると、メモリ-用やCPU用の2.5Vとか、1.1Vはほぼまともに立ち上がっていくの
ですが、5Vラインが、殆ど立ち上がらず、0.1Vにも満たないレベルでストップしてしまいました。
これは、変だとすぐに気付き、テスターを使い、DC-DCコンバータ部分で、対グランド間の抵抗を測ると、0.36Ωしかあ
りません。5Vラインに0.36Ωという負荷は異常で、オームの法則で計算すると、5/0.36≒14Aもの電流が流れてしまうこ
とになります。デスクトップ機ならいざ知らず、ノートでこの値は正常とは思えません。
(4)症状のネット検索
「5Vラインの負荷に殆どショートしているものがあるはずだ。」と予想しネット検索をすると、一部だけでも、下のような
事例があれこれ見つかりました。NECのPCに使われているチップタイプのセラミックコンデンサには、内部ショートとい
う事例が沢山あることが分かってしまったのです。
http://stretch.main.jp/pc/?cat=28
http://www.pc2.jp/pc/sindan/chipcondensa.htm
http://nahitafu.cocolog-nifty.com/nahitafu/2006/03/pc_c9da_1.html
http://www.tecn-pc.com/index.php?QBlog-20130424-1
http://pcassist.exblog.jp/i5
これらの事例では、ショートによる渦電流のため、焼損している事例すらもありましたが、私が預かったPCには、焼損
箇所はありませんでした。それもそのはずで、明らかに、渦電流保護回路が働いて、電源を元から遮断し、かつそれが
サイリスタ動作するようになっていたからです。発熱が続かないよう、電源が元から遮断される仕組みがこのPCにはあ
るようで、目で追えるような壊れ方はしていません。
(5)故障コンデンサーの特定
さて、どうやって、ショートしている部品を探り当てれば良いのでしょうか。あれこれ、思考錯誤しましたが、手持ちのテ
スターが、1/100Ωまで読めることを利用して、5Vラインの抵抗値を、あちこちを測ってみることにしました。
多くの箇所で0.3Ωより大きいか、僅かに0.3Ωを切るくらいでしたが、上の写真の赤丸内のHDMI回路のパスコンの一
つが0.27Ωを示しました。テスターリードの当て方で、下桁は変動するため、注意深く、かつ強めに当て、さらに繰り返し
て測って、最低値を読むようにしました。
すぐ隣に並列に存在するコンデンサは、一瞬だけ0.27Ωと表示したことがありますが、0.28Ωを示すことが多く、下の
2つ目の写真で矢印を付けたものは、0.27Ωという値が、高い頻度で得られました。まさに、これがBingoでした。
<<一番抵抗値が低く観測される箇所 0.27Ω>>
<<赤矢印で示すセラコンが問題部品であった>>
このコンデンサを外して、測った結果が以下の写真です。ショートした部品が、それと並列に沢山の部品がつながって
いる場合、特定するには、低い抵抗値が分かる高級テスターを使うか、低抵抗用測定用のアダプターを自作することで
す。今回、自作することを考えましたが、その前に、判明してしまったので、作らず終いでした。
<<不良コンデンサを単品で測ると、0.28Ω>>
単品で測ると、0.28Ωでした。明らかに、内部で導通してしまっていることが分かります。基板にあったときは、0.27Ωな
のに、単品では、0.01Ω大きいのは、測定誤差もありますが、5V回路全体が並列に加わっていたときと、そうでないとい
う違いがあってのことでしょう。
4、故障部品の交換
しかし、このコンデンサを交換しようにも、小さな本体に何も印刷はされておらず、スペックが分かるはずはありません。
外したコンデンサの代わりに、新たに付けるべきものを正確に選ぶ術はなく、私の経験と勘で、0.47uF 25V B特性とい
う、国産のものを使うことにしました。どうして、そうしたかは、手持ち部品にあったということもありますが、使われてい
る用途がVccとGNDライン間でしたから、HDMI用ICの動作とEMCの観点から、0.1-1.0uFなら大丈夫であろうと推測し
たからです。
交換後、仮組み立てをしたら、ちゃんと、通電するようになりました。HDMI回路も問題なく機能することを確認し、全て
を組み付けて、エージングしているのが、下の写真です。
<<修理完了後>>
5、あとがき
この後、持ち主にお返ししましたが、ちゃんと動作することと、私のような定年退職した老人が修理してしまったことが、
不思議そうでした。お礼の言葉とは別に、
「費用は?」と聞かれましたが、
「セラコン1個の交換で済んだので、貰うほどではありません。」と応えておきました。
「本当に只で良いのですか?」と言われましたが、
「私にとっては、体力は落ちていても、やる気の起きる元になりました。また頭の体操にもなり、老人ボケの予防にも少
しはなったはずなので、お礼を言いたいくらいです。」
と言って、その場は別れました。
後日、娘を介して、クッキーの入った大きな箱が届きました。手動式の古いコーヒーミルを使って、コーヒーを入れ、
そのクッキーを頂いたのです。コーヒーを飲みながら、昔の同僚たちが、今どうしているか、ふと、思いました。
定年かその前に、近隣諸国に行って、羽振り良く暮らしている仲間もいれば、私のように、国内に残り、主にボランティ
アをしている仲間もいます。私の場合、体のこともあって、もう、働くことはせずに、年金で細やかに暮らしていますが、
暇そうにしていたため、仰せつかってしまった、田舎の町内会の役員は結構、忙しかったりもします。でも、
「地に足が付いた暮らしができているね。」
と先日、町内の人から言われた意味を考えてみました。少なくとも、私に対する批判ではなく、生き方に対して、エール
を送って下さったのか、多分、この先、そう長くはない、私の命に対しての慰めの言葉だったとも思いならコーヒーを飲
み終えました。
NECのPC-LS150BS6Wは、その後も、調子良く動作しているそうで、娘から、
「お父さん、あの人、とっても感謝しているよ。」
と言われました。娘の幼かった頃、私が誤って、絨毯に落とした、抵抗やコンデンサを娘が踏んで、足に刺さったり、私
が通電したままにしていた半田鏝を触って、火傷したことがありました。家内にも娘にも、私のやることは顰蹙ものだっ
たようですが、今、成人した娘は、私の善き理解者になってくれていたりもします。
Yank
○ども、Dynaです。難しすぎて、よく分からないところを質問させてください。
Q1:低抵抗用測定用のアダプター ってどんなものでしょうか。
A1:ご質問にお答えします。ただ、職業的、偏向が私にはあり、ちょっと専門的な書き方をするかも知れません。
低抵抗用測定用のアダプターとは、
物理学で言う、フェルミエネルギー/レベルを応用して、線形の低抵抗箇所を特定するものです。具体的には、電圧
が、0.5Vまで、電流が最大1A までという、低電圧の定電流電源です。0.5Vまでという訳は、フェルミエネルギー/レベ
ルを逆手に利用し、半導体には電流を流さず、線形負荷である、低抵抗部分にだけ電流を流すことで、ショート箇所を
積極的に発熱させて、見つけるというアダプターです。赤外線式のサーモグラフィーカメラ と組み合わせて、仕事では使
っていました。
尚、フェルミエネルギー/レベルに関しては、この辺りに、説明が出ています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC
http://hooktail.sub.jp/solid/shino-PNI-typeSemiconductor-upper/
例えば、今回のような場合、5V電源ラインに、このアダプターから、0.5Vを印加すれば、約0.3Ωというショート箇所に
は、約1.67Aとい う電流が流れ、0.83Wという発熱が、電流の消費箇所で発生します。小さなチップ部品に1W近い発熱
があると、赤外線カメラで簡単に見つけるこ とができます。家庭用のカメラでも、赤外線モードのあるものを使えば、発
熱箇所が簡単に分かります。また、カメラが無くても、指先で触れれば、暖 かいを通り越して、熱いということでも、過電
流の箇所は分かってしまいます。ショート部品が、完全な0Ωでショートということはまずなく、残留抵 抗があるので、オー
ムの法則を応用し、熱で感知ということが可能です。でも、これを使わなくても、手持ちのテスターで分かってしまったの
で、今回 は楽でした。
→物理学説明は正直?でしたが、熱で感知する「赤外線式のサーモグラフィーカメラ」ですか、なるほどです。このア
ダプターと、カメラを使うと、不良箇所の特定が楽に出来るのですね。 By Dyna
Q2、コンデンサの外し方・付け方を教えてください。
A2:具体的な写真は撮影していないのですが、私の場合、外す際は、2本の半田鏝を使って、両端を同時に暖めながら、
軽くスライドさせています。付け方 は、特に特別なことはしておらず、ピンセットでつまんで、両端を片方づつ半田付けし
ているだけです。勿論、チップ用の先端の細い鏝は使っています。
→半田ごて2本を使うのですか。なるほどです!手が2本しかないので、ちょっと不安ですが、上手くMBを固定すれば
何とかなりそうですね。試してみたくなりました。ありがとうございます。 By Dyna
ども、Dynaです。
最新ノートPCの、チップセラミックコンデンサ交換、お見事です。原因の特定から不良パーツの特定まで、正直、プロ
の世界で、着いて行くのはちょっと厳しかったです。ただ、このようなケースでは、このプロセスで修理できることが分か
ったのは、大収穫でした。ありがとうございます。
デスクトップPCの不良コンデンサ交換は、目でも分かりやすく、パーツが大きいので、比較的作業が楽でした。(それ
でも、緊張はしましたが・・・・・。) しかし、ノートPCにおける、この作業は、不良パーツの場所が分かっても、格段に
難しいですね。でも、最新のノートが直るなら、おそらく当方もチャレンジするでしょう。
当方も、術後の回復に数年かかれば、そのまま退職です。今、仕事をしていても、術前のバリバリ時代に戻れないの
ではと、とても心配になります。しかし、先週秋葉原に1ヶ月半ぶりに立ち、今、こうしてレポートを書かせていただいて
いると、「まだまだ負けないぞ!」と勇気というか、元気が沸いてきました。
しっかり、養生しながらも、早期の復帰を目指します。それと、退職後に地元の町会等、ボランティアなど、もう少し、
広い視点での活動もそろそろ検討しなければいけませんね。
日本には、このようにハイレベルのスキルを持ちながら、ボランティアで奉仕してくれるベテランが多くいるかと思うと
いい国だなと思います。お互いに頑張りましょう。
By Dyna メール