電解コン交換で直った ボイラーのエラー760
1、ボイラー不調でお困り
昔、私が若い頃にとてもお世話になり、その後も何かとお世話になっている方から遠慮気味な話し方で私に電話があった。
「寒くなってきたら灯油式ボイラーが不調で、寒波襲来なのに風呂に入れず、業者を呼んで修理をお願いしたが、期待外れのことを言われた。」
という旨のことを話された。その業者さんが言われたのは、
「製造から19年にもなる古いボイラーの部品はもう無く、修理は無理。買い替えてもらうしかない。新しいものへの入れ替えには納期も工事も必要で、
正月過ぎになり、費用は約40万円。」
だったそうで、期待外れのやや非情とも思える言葉のように私は感じたが、今のビジネスはこういうのが普通なのだろう。私たちのような古い人間は
時代に取り残されて、嘆くことしかできないご時世になってしまった。解決には、お金を積むしかないのかも知れない。
それはこの型番のノーリツ製ボイラーのことだった。
写真1 OTX—305SAFV
問題は40万円という高額な費用だけでなく、年末年始に業者は作業ができないため、工事は年明けになってしまうことのようだ。近場の銭湯はどこも
廃業してしまっており、当面、風呂に入れそうもないのはお困りだろう。もし電子系だけの故障なら、私で何とかなるのかもと思った。お世話になって
いる方でもあるし、私に電話されたのは、私に期待されている部分もあってのことかも知れない。一方で、業者さんの言い残した言葉に、
「エラーコード760 = 通信エラー であり、メイン基板か、リモコンユニットの交換が必要だが、もうどちらもメーカーから出荷されない。」
があったそうで、私なら基板内の悪い部品を見つけ出し、それだけを交換すれば直せる可能性もあるように思った。もし、私の技術力が十分に高く、
直せる可能性が高かったら、
「分かりました。お任せ下さい、ご安心を。」
と言いたいところだったが、そこまでの自信は無かった。でも、メイン基板か、リモコンユニットの交換ということに、51%の自信が出た。そして、何とか
しなければという思いになった。
「寒い日が続くと、駄目になってしまうが、温かいとシャワーだけ何とか機能することもあった。しかし、この年の瀬にこんなことになろうとは。」
とお世話になった方は嘆いておられたが、このフレーズの中にもヒントはあった。そして、自信はぐっと上がった。温かいと言うのは、温度要因であり、
過去に私は類似の経験を何度もしているからだ。そして、自身の心の中でこう呟いた。
「何とかして、直してみよう、これだけの事実が分かっていて、直せないなんて恥だ。」
2、原因と対処
結論を先に書いてしまうと、通信エラーの原因は、リモコンユニット内のDC-DCコンバーターに使われている電解コン2個の劣化であった。それらは下
の2枚目の写真3に青と赤の矢印で示すものである。当初、本体内のメインのマイコン基板に問題があるかと、オシロスコープや半田ごて法(詳しくは後述)
で調べたが、問題は見つからなかった。でも、念のため、写真2に赤矢印で示す電解コンデンサーは交換しておいた。これはマイクロコンピューターの電源
ライン
に入っているものだったからである。その後、リモコンユニットを調べることにし、修理に成功した。
写真2 メインのマイコン基板
写真3 リモコンユニットの基板
写真3には9個の電解コンがあるが、ヘアードライヤーで基板全体を温めると、ボイラーは正常に動作することから、これらの中に、悪いものがあり、
それを特定するだけのことと思った。9個もあるため、それは容易なことではなさそうなのに、簡単に早く見つけることができてしまう手法(半田ごて法)
を使い、代用できる良品に交換したことで、ボイラーは完璧に動作するようになった。
お風呂が確実に沸かせるようになって、相談主の顔が綻んだ。満面の笑みで物凄く感謝され、修理費用はと尋ねられたが、私の手持ちの電解コン
計3つで直ってしまったので特にお金は掛かっていませんと申し上げた。でも、手間賃くらいは払わせてと言われたが、大したことはしていませんので
と申し上げて私は帰って来た。私のやり方の半田ごて法の有効性の検証にもなり、また、お風呂に入れるようになって、相談主も私もハッピーだった。
3、半田ごて法とは
写真4 半田ごて法
これは別の基板で撮った写真であるが、こうやって半田ごてを当てるやり方である。
アレニウス則に従って劣化した電解コンは熱を加えて判断するというテクニックが使える。具体的には、半田ごてを上の写真のように、調べたい電解
コンの頂部に当てて、機器の変化を調べる方法である。中には、見ただけで劣化した電解コンを見つけられるものがあるが、一部の特殊な種類だけ
である。例えばここにある電解液に第4級アンモニウム塩を使ったものがそうで、リード足が腐食し液漏れする。
https://www.clublexus.com/forums/ls-1st-and-2nd-gen-1990-2000/656360-all-my-crazy-lexus-issues-solved-ecu-leaking-capacitor.html#post7496907
また、頂部が膨らみ、やがて液漏れする、コンピューターによく使われる水性電解コンがあったりする。
https://godhanda.co.jp/blog/51199653-2/
一般にはESRメーター等の測定器を使って測定しないと劣化具合が詳しくは分からないのが普通である。電解コンデンサーは段々と劣化して行くものであり、
その場合、温めると性能がその間だけ改善することを逆手に使って、半田ごてで温めるというのが、私がやる半田ごて法である。電子機器の寿命を決めて
しまう要因で多いのは、電解コンの劣化と半田クラックであり、それらを見つけて対処すれば、直せてしまう機器は多い。半田クラックの事例を一つ紹介させ
てもらうとこういうこともある。これは70万円もする車の排気ガステスターの事例である。
https://minkara.carview.co.jp/userid/1275711/car/2809201/5421845/note.aspx
この半田ごてによる方法だと、簡単に劣化したコンデンサーを特定できることになり、今回もまさにその一つの具体的な事例となった。
写真5 正常に動作するようになった基板
この半田ごて法で見つけた写真3の青と赤の矢印で示す2つの電解コンを交換したら、LED点灯も蛍光管表示も正しく出て、ボイラーが正常に働くように
なった。通信エラーがあったときは、妙な表示が出て、お湯もたまにシャワーからしか出なかったと相談主から言われた。
4、リバースエンジニアリング
回路図が無く、手探り的に修理しようとすると、膨大な数の部品を次々と交換しなければならないが、私は使われている電子部品と銅箔の配線路から、
基板をリバースエンジニアリングすることで、確実に修理するようにしている。またこれをやると、修理が間違いなく行えたかも分かる。調べると、2つの
電解コンは、15VDCから5VDCを作るスイッチング電源の平滑用としてパラに使われているものであることが判明した。後で示す写真6のように、ESRが
大きく、これらの電解コンはリップルの吸収が十分にできなくなってしまい、平滑が不十分となったようだ。温度が低い程、ESR増大の傾向が強くなり、
寒いと調子が悪くなる電子機器は劣化した電解コンによって引き起こされていることが多い。今回のリモコンユニットでは、5Vで動作するマイコンがリッ
プルによって、まともに動作せず、通信エラーが引き起こされたものであったと確信した。
類似なことは車でもよくあり、例えば、この280E
Broughamさんという方の下のリンクも同じような事例とも言え、私の提案が役立ったようで、電解コンデ
ンサーの交換後は調子良く機能するようになったと喜ばれた。掲載許可を頂くためもあり、近況を昨日お尋ねしたら、今冬も調子良く、セルシオは機能
しているとのことであった。
https://minkara.carview.co.jp/userid/2789245/car/2387868/7457995/note.aspx
また、電解コン劣化と言えば、これらの事例もあったりする。
https://minkara.carview.co.jp/userid/1275711/car/2809201/7373270/note.aspx
https://minkara.carview.co.jp/userid/1275711/car/2809201/6720133/note.aspx
https://minkara.carview.co.jp/userid/1275711/car/2658098/5297958/note.aspx
尚、使われていた電解コンは、ニチコンのマークが付いたF1P 100uF/16Vなるもので、ニチコンのここに仕様書のあるUWTシリーズであった。
https://www.nichicon.co.jp/english/series_items/catalog_pdf/e-uwt.pdf
この電解コンデンサーは、低温性能が-55℃までOKという特徴があるが、標準品と性能的には余り変わらないものであって、低ESR品ではなかった。
私の手持ちで電解コンに同じものは無く、修理を急ぐ必要があり、敢えて使ったのは、47uF/20VのOSコンと呼ばれるパナソニックのアルミ固体電解
コンデンサであった。容量が半分弱だが、低ESRでリップル除去性能に勝れ、耐久性もあり、低温性能も良く、この容量でも十分に足りると判断し、
使ってしまったが、電圧レギュレーターによっては、位相補償の関係で発振する場合があり、闇雲には使えない。OSコンは高周波特性が通常の電解
コンよりずっと良く、位相回転によって、発振し易い。完璧な修理をしようとすると、ボーデプロットを調べ、発振余裕度を確認すべきだが、早くボイラー
を稼働させるために、発振しないことだけを条件を変えながら確認し使ってみた。結果はOKだった。
5、何故、電解コンが劣化したかの考察
2つのコンデンサーの下には、15VDCから5VDCを作るためのDC-DCコンバーターによるスイッチングレギュレーター回路が配置されていて、それなり
に熱が発生している。事実、この写真の赤矢印で示す、コンデンサーより下にある部品は発熱し、触るとかなり温かい。この熱が上に位置する電解
コンデンサーに伝わり、アレニウス則に従って劣化が他より早く進み、ESRが増大したと推測される。こういう事情もあって、2つは寿命を早く迎えること
になってしまったのだろう。でも、19年間は機能していた。
写真6 熱源
写真6 ESR 28Ω
6、ダメ押しのESR測定
電解コンを基板から外す際、1個は上手く外れたが、もう1個は足がもげてしまいESRメーターに接続不可能になってしまった。ESRメーターで、室温23℃
の時に測ると、このとおり、28Ωと出た。こんな大きな値では、リップル除去が不十分となるはずだ。
写真7-1
写真7-2 ESRが下がって行く
ESR=40Ω Vloss=5.2% ESR=14Ω Vloss=3.8% ESR=0.00Ω Vloss=1.2%
663.7μF 663.7μF 663.7μF
この電解コンを暖房が一切ない、薄暗い物置で、ESRを測った後、半田ごてで暖めたらどうなるか調べてみた。当初、40Ωと出たが、半田ごてを当てたら、
どんどんと小さくなり、やがて0Ωになった。Vlossも、温まる程、低下していることが分かる。何故か不思議なのは、静電容量がどの条件でも663.7uFとえらく
大きな値なのが変だが、これは測定器がある容量以上だと、この数字になってしまう問題のようだ。
この写真のように、半田ごてで温めると、劣化した電解コンが素早く見つけられることがお分かり願えるかと思う。
6、ネット情報
ネット検索で、エラーコード760を調べると、一杯、事例が見つかるが、修理できたという話は見つからず、ボイラーの買い替えばかりの話が出ている。
私がどうトラブルシュートし、どう直したか、私一人だけのKNOW-HOWとせず、オープンにすれば助かる人もおられるのではとも思う次第である。寒いと
起き易いエラーコード760は、多くがリモコンユニット内の基板に載っている電解コンの劣化であろう。以前、投稿させてもらった三菱の液晶モニターでも、
パナソニックの高機能電子レンジでもサンデンのドリンク自販機でも、秋葉原ジャンクパラダイスの記事の真似をしたら直ったというメールがDynaさんの
ところにあれこれ届いるそうで、今回も投稿させてもらうことで、助かる人もあろうかと、駄文を書いた次第である。
尚、相談された方は、私にとって恩人でもあり、私が若い頃、英語に慣れることを大いに助けて下さった方だった。当時はまだインターネットが普及する
以前で、海外の工場とはFaxや電話でやりとりしていたが、自分の限られた英語力では辛いものがあった。でも、この人のお蔭で英語が随分と楽に扱え
るようになり、業務の遂行が楽になった。そういう事情もあって、私は頑張って修理してみようとも思った次第である。リンクで紹介した英文のページは私
が書いたものだが、英語で不具合問題について解析内容と、その対処方法を書けるようになったのは、まさに依頼主に負うところが大きい。仕事でこう
いうことがとても役立ち、年寄りになってもまだ活用させてもらえている。
おわりに
ども、Dynaです。やはり拍手喝采情報ですね、ありがとうございます。今までの悩みの多くが解決しました。ちょうど年末の年賀状作成でEPSONの
プリンターが壊れ、その修理を行っていた真最中でしたが急遽中止して、コンデンサー交換が必要な機器(バッファアローの外付けHDDケース)にて実施して
みました。(電源の入らない機器はコンデンサー不良が原因の場合が多いと思います。)
ただし、当方が行ったコンデンサーチェックは、すでに何回も実施している一般的なアルミ電解コンデンサーで被覆があるものだったので、上手く半田ごてを
当てられず、ヘアードライヤーを使ってみました。しかし、それよりも機器そのものの発熱があったため電解コンデンサーが温まってしまい、数分後には通常動
作してしまうのでした。何回か外に出して冷やしてから再度実施しましたが、微妙でうまく確認できませんでした。
これらを踏まえると、不良コンデンサー探しの手法は、種類毎に使い分ける必要がありそうですね。
追加情報:Yankさんより 「被覆があると、次々には調べられないので、そういう時、私はパーツクリーナーを吹き付けて、気化熱で冷やすようにしています。
今回はSMD部品であったことと、冷え切った風呂場の中であったので、少し待つだけで済みました。」
1、アルミ電解コンデンサー(被覆あり:一般的なコンデンサー)
バッファアローの外付けHDDケース(事例は多し、本ケースでは、まだパンクはしていないのですが、動作が不安定に)
(対応方法)
・目視でパンク・液漏れを探す。
・半田ごてを被覆に当たらないようこて先を変えて接触させる。 ヘアードライヤーをピンポイントで当ててみる。(←ちょっと難しいかも)
・回路の温度が上がってしまうようならYankさんの追加情報のように、パーツクリーナーを使って温度を下げる。
2、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサー(今回のケース)
(対応方法)
・半田ごてを当ててみる。(今回のケースのとおり)
3、チップ型セラミックコンデンサー(YouTubeより)
(対応方法)
・基板に電流を流しサーモカメラで発熱するものを見つける。手で触って温度変化を調べる。
・目視でクラック等を見つける。
3種類のコンデンサーについて、このようにすれば見つかる可能性が高くなると思います。あと、不良コンデンサーの容量が意外に抜けていない件、
ESRが関係しているようですね。当方は測定できる機器を持っていないので、入手を検討します。ありがとうございました。「半田ごて法」活用させてい
ただきます。
貴重な情報を無料で公開させていただき、本当に感謝いたします。
皆さんも、活用されるとともに、追加情報等ありましたら連絡方よろしくお願いいたします。
By Dyna メール
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